2009年9月27日日曜日

ゴルの狩人 6 【HUNTERS OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの狩人
ジョン・ノーマン 


1. リム(6)

「お前は北の森に詳しいのか?」
わたしは尋ねた。
「森に詳しいかですって?」
  わたしは男を見た。
「森に住むことだってできますよ。森の西から東まで隅々まで知ってます」
「女豹族の一隊がお前を捕虜にしたんだな?」
「そうです」
「その隊のリーダーの名は?」
「ヴェルナ」
  サモスがこちらを見た。満足だ。
「お前は自由だ」とわたしは男に言い、衛兵のほうに向き直った。
「鎖を外してやってくれ」
  衛兵が鍵で手かせを外し、足首を固定していた鉄の留め金の鍵を開けた。
  男は呆然としているようだった。
  奴隷娘は声も出せず目を見開いている。後ろに飛びのき、パガ壷を掴んだまま首を振っていた。
  金貨を入れた袋を引き寄せ、この男の代金に金貨5枚をサモスに渡した。
  わたしたちの前に立った男に、鎖はついていない。手首をこすり、不思議そうにこちらを見ている。
「わたしはカル港のボスク屋敷ボスクだ。お前は自由だ。好きにして良い。朝、町外れの三角州の境にあるボスク屋敷から北の森に向かう。良ければ入り江の入り口で、わたしを待っていてくれ」
「わかりました、船長」男が答えた。
「サモス、この屋敷でのもてなしを頼めるかな?」
  サモスはうなずいた。
「食べるものと、着るもの、武器を選ばせて、部屋と酒だ」
わたしは男のほうを見て、微笑んだ。まだ檻のにおいがしている。
「それから、暖かい風呂と適当なオイルもいるな」
  男のほうを向いて、
「名前は?」と尋ねた。もう彼には名前がある。自由だからだ。
「リム」
男は誇らしげに答えた。
  無法者だと言っていたから、都市は聞かなかった。無法者は自分の都市を名乗ることに関心はない。
  奴隷娘は更に2、3歩後ずさりしていた。恐れている。
「そこにいろ!」娘に厳しく言うと、娘はすくみあがった。
  娘はとても美しく、奴隷のシルクをまとっている。左の足首に鈴をつけられている。すらりとして黒い髪に、黒い瞳だ。目が大きい。そそる脚が奴隷のシルクから見えている。 
「この娘はいくらだ?」 サモスに聞いた。
  サモスは肩をすくめ、
「金貨4枚」 と言った。
「買おう」
サモスの手に金貨4枚を置いた。
  娘は怖がってわたしを見ている。
  衛兵の一人がリムに中ニックを取ってきて、リムが身にまとった。大きなバックルのついた幅の広いベルトをした。ぼさぼさの黒髪を振り乱した。
  リムは娘を見た。
  娘は訴えるような目でわたしを見た。
  わたしの目は、険しいゴル人の目だ。娘は震えて首を振った。
  頭でリムを指し、「お前はリムの物だ」と告げた。
「そんな!嫌です!」娘は叫び、わたしの足に体を投げ出し、頭をサンダルにつけててうめいた。
「お願いです、ご主人様!お願いですから、ご主人様!」
  娘が顔を上げわたしの目を見たら、ゴルの男は折れないことを読み取るのだ。
  娘の下唇が震えている。娘が頭を下げた。
「名前は?」わたしはサモスに聞いた。
「俺が付けた名前なら何でも良いさ」
リムが答えた。
  娘は怒ってべそをかき、名前を奪われた。ゴルの法の見地から、奴隷は動物であり、法律的な名前を持つ権利はない。
「この人をどの部屋に泊めますか?」かぶとをかぶった衛兵の一人が尋ねた。
「広い部屋に案内しろ。遠い街の上級の奴隷商人が指定してくるヤツだ」
「トルの間ですか?」衛兵が聞いた。
  サモスはうなずいた。トルは裕福な砂漠の都市で、快適さと楽しさが卓越していることでよく知られている。

 

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訳者の言い訳と解説

  愛するタレーナは奴隷にされ、やはり愛するテリマは湿地に帰っちゃったし、
奴隷の脚とか見てる場合じゃないと思うんですけど、
そのへんのダメさがタールの愛嬌ですかね・・・・・・。

  奴隷娘を金貨4枚で買うところを、ごっそり翻訳し忘れたので追加しました。

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ゴルの狩人 5 【HUNTERS OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの狩人
ジョン・ノーマン 


1. リム(5)

  鎖につながれた、衛兵に両脇を固められている裸の男奴隷にあごをしゃくり、
「奴隷か?」とサモスに聞いた。
「こっちにつれて来い」
サモスが言った。
かぶとをかぶった二人の衛兵が、奴隷の腕を取ってこちらに引きずってきた。それからまたひざまずかせ、ぼさぼさの黒い髪を引っ張ってわたしたちのサンダルの前に頭をつかせた。
  女奴隷が笑っている。
  衛兵が奴隷の髪から手を離すと、姿勢をまっすぐにしてわたしたちを見た。
  誇り高き男のようだ。気に入った。
「変わった床屋に行ってるんだな」
サモスが言った。
  女奴隷が嬉しそうにまた笑った。
  頭の前から首の後ろに筋を刈られている。北の森の女豹族に捕らえられ売られた証だ。男にとってもっとも恥ずべきは、女に隷属して所有され、飽きたら売られて金にされるということだ。
「弱虫で愚か者の、女奴隷同然の男が、女の奴隷に落ちると言われている」
そう言ったサモスを、男がぎらぎらした目で睨みつける。手かせをかけられたこぶしが、背中でまた握られるのが感じられた。
「わたしは一度は女の奴隷だった」
わたしが言うと、男は驚いてこちらを見上げた。
「お前をどうしようか?」
サモスが問う。
男の首の周りには、槌で打たれた重々しい鉄の首輪がされている。男の奴隷には珍しくないことだ。金床に頭を置かれ、叩いて首の周りに鉄を曲げたのだのだろう。
「お望みのままに」
男はわたしたちの前にひざまずいて言った。
「どうして奴隷になったんだ?」
わたしが聞くと、
「ご覧の通り、女の手に落ちたのです」
「どんな風に?」
「寝込み襲われ、のどにナイフを当てられて目が覚めました。鎖につながれ、もてあそばれ、飽きたら繋がれて手かせをかけられ、森の西の端との境界線、タッサの端の人気のない海岸に連れて行かれました」
「名の通った会合のポイントだ。わたしの船の一隻が彼らを拾った」
サモスが言い、男を見た。
「お前の値段を覚えているか?」
「鉄のナイフ2本と、鉄のやじり50個です」
男が答えた。
「それとアルの飴が一山」サモスが微笑む。
「そうです」
男は怒りに歯噛みしていた。
  奴隷娘が手を叩いて笑っている。サモスは咎めなかった。
「お前の運命は?」サモスが尋ねた。
「当然ガレー船の奴隷だ」男が言った。
  カル港、コス、テュロスの大商船や戦艦は、こんな何千人もの惨めな者を利用している。
煎じた豆と黒いパンを食わされ、並べて鎖につながれ、ご主人様の鞭の元で、摂食と鞭打ちと舟をこぐだけの人生だ。
「北の森で何をしていた?」
わたしは尋ねた。
「俺は無法者だ」
男は誇らしげに言った。
「お前は奴隷だ」
サモスが言った。
「そうです。奴隷です」
  簡素なシルクをまとい、両取っ手のついた銅のパガ壷を持って立っている奴隷娘が、男を見下ろしている。
「北の森を通る旅行者はほとんどいない」
わたしが言った。
「普段は、俺は森の向こうで略奪する」男は奴隷娘を見た。「たまに、森の中でやる」
  娘は赤くなった。
「俺が捕まったとき、運試しをしてたんだ」
男は言い、サモスを見た。
  サモスは微笑んでいる。
「狩をしているのは自分だと思っていた。でも狩をしているのは女たちのほうだった」
  娘が笑った。
  男はいらだたしげに目をやった。
  そして顔を上げ、
「ガレー船送りになるのはいつなんです?」と尋ねた。
「お前は強いし良い男だ」サモスが言った。「金持ち女が良い値をつけてくれるだろう」
  男は怒りに大声を出し、足の鎖に抗おうとした。衛兵が男の髪をつかみ、また無理やり跪かせた。
  サモスは娘に振り返り、
「この男をどうしようか?」と聞いた。
「女に売って!」と笑った。
  男は鎖につながれもがいている。

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ゴルの狩人 4 【HUNTERS OF GO】

<反地球シリーズ>
ゴルの狩人
ジョン・ノーマン


1. リム(4)

  ちらりと部屋を見渡すと、数ヤード向こうにタイルの上で、簡素なシルクをまとい、両取っ手のついた銅のパガ壷の脇で、跪いた奴隷娘が命令を待っている。黒髪の美しい娘だ。女は鎖につながれた男を一瞥し、長い黒髪をかき上げた。男は手かせをかけられ跪き、衛兵に挟まれて女をじっと見つめていた。女はそれに気づき、馬鹿にしたように微笑んでから、退屈げにそっぽを向いた。手かせをかけられたこぶしが握られるのがわかった。
「テリマはどうする?」サモスが尋ねた。
「わかってくれるさ」
「情報が入った」サモスが言った。「今夜お前が屋敷を出た後を追うように、テリマは湿地に帰った」
  わたしは飛び上がった。
  よろめき、部屋がぐるぐるした。
「テリマはどうすると思ってたんだ?」サモスが尋ねる。
「なぜ言わなかった?」
わたしは叫んだ。
「言っていたらどうした?奴隷の輪をかけてソファに鎖で繋ぐか?」
カッとなってサモスを見た。
「テリマは誇り高い、高潔な女だ」
サモスが言う。
「わたしは、テリマを愛している---」
「ならば湿地に行き、探して来い」サモスが言う。
「き……北の森に行かなければならないんだ」わたしは口ごもった。
「建築士をウバラの書記の6へ」
木製の長いこまをわたしのほうに動かしながら、サモスが言った。
  ホームストーンを守らなくては。
「選べ。どちらかを」サモスが言った。
  なんということだ!たいまつの明かりの灯る広間を大またで歩くと、ローブがはためいた。石壁を何度も打った。テリマは理解しなかったのか?わたしがすべきことがわからないのか?わたしは精を出してカル港のボスク屋敷を築き上げてきた。この街で地位もある。ゴルで一番名誉な席に座る資格があり、うらやまれているんだ!商人であり船長のボスクの女であることがどんなに名誉なことか!それなのにわたしに背を向けるとは!テリマにはがっかりだ!生意気にもわたしを!ボスクを失望させた!湿地が何をしてくれるんだ!金も、宝石も、シルクも銀も、あふれる金貨も、えりすぐったワインも、使用人も奴隷も、安全なボスク屋敷も拒み、わびしい自由とヴォスク三角州の塩湿地の静寂を選んだ?
テリマはわたしが急いで後を追って、哀れっぽく戻ってくれと頼むと思ったのか?一度はわたしの伴侶となったタレーナが、惨めな緑の北の森で奴隷の鎖に繋がれていると言うのに!テリマの小細工など通用しない!
  好きなだけ湿地に居させてやろうではないか。ボスク屋敷の門の前に戻り這いつくばって哀訴するんだ。飼いならされた小さなスリーンが、入れてくれと鼻を鳴らして引っかくように。連れ戻してもらうためにな!
  でもわたしにはわかっていた。テリマは戻ってこない。
  わたしはうめいた。
「どうするつもりだ?」サモスが言った。競技盤から顔は上げなかった。
「朝、北の森に立つ」
「テルシテスが船を作った。この世の果てまで航海できる」
「わたしは神官王には仕えていない」
  わたしは毛織のローブで目をぬぐい、競技盤に戻った。
  わたしのホームストーンは危機に直面していた。
  それでもわたしはたくましく強いのだ。鋼をまとっている。わたしはボスクだ。かつては戦士だった。
「ホームストーンをウバルのタルン戦士の1へ」
わたしは言った。
  サモスがわたしの代わりに動かした。


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訳者の言い訳と解説
  テルシテスが過去に、なんという名前で訳されているのか忘れました。
確認して修正するかもしれません。
でも何に出てくるんだっけ。。。
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2009年9月26日土曜日

訳者の言い訳と解説 1

  惑星ゴルには奴隷制度があり、その世界観がBDSM愛好者に絶大な支持を受けています。
奴隷は心からご主人様を愛し、ご主人様もまた奴隷を動物として扱いつつ愛している。
作者であるジョン・ノーマンがそういう方向に思想が行っていると考えられています。

  ですがこの『ゴルの狩人』の冒頭から、そういうのって本当に愛なの?
という問題を提起しています。
当然(?)、今回もその辺のことは描ききれてませんので、
答えがあると思って読むと疲れまする・・・・・・。
  でも奴隷にしか興味ないよってことじゃなければ、
そういうつもりで読んだら良いと思います。

  さぁて、がんばれ、アマチュア翻訳家の自分。

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ゴルの狩人 3 【HUNTERS OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの狩人
ジョン・ノーマン 


1. リム(3)


  わたしはウバルの高タルラリオン騎手を動かし、サモスが余裕で守っているホームストーンの列を抑えようとした。
「おまえがマルレヌスの娘、タレーナと自由な伴侶になってからだいぶ経ったな」
サモスが言った。
「自由な伴侶は、一方の死によって次の年には更新されない。それにお前は一度奴隷になっている」 
  わたしは苛立ちながら、競技盤を見ていた。ゴルの法において自由な伴侶が無効になり、更新されないのは事実だ。それに自由な伴侶は誓約した伴侶の一方またはもう一方が奴隷に落ちれば、その時点で終結するのだ。わたしはヴォスクの三角州での燃えるような恥辱を思い出し、腹を立てた。自分は戦士だと思っていたのに、あの時わたしは跪き、名誉ある死という自由ではなく不名誉な隷属を請い求めた。そう、わたしカル港のボスクは、一度は奴隷になったのだ。
「あなたが駒を動かす番だ」わたしは言った。
「タレーナという娘を探す義務は無いのだぞ」サモスは言った。
  わかっている。
「わたしはタレーナにはふさわしくない」
  タレーナのことを忘れたことはない。彼女の美しさ、オリーヴ色の肌、緑色の瞳のタレーナ。すばらしく美しい姿、幻想的な唇、ウバルの中のウバルであるアルのマルレヌスの誇り高き血が流れている。わたしの初恋だ。出会ってから何年も経った。
「神官王がタレーナとわたしを引き裂いた」険しい目つきでサモスに言った。
  サモスは競技盤から目を上げず、
「この世のゲームにおいて、われわれは重要ではないのだ」と言った。
「タレーナは北の森に連れて行かれたと聞いた。無法者のヴェルナが、アルのマルレヌスをおびき寄せるためだ。マルレヌスは当然タレーナを救おうとするだろうから」
わたしは顔を上げた。
「マルレヌスは狩りに遠征をして、動物や、ヴェルナと配下の者を捕獲したんだ。戦利品として籠に入れて展示した。ヴェルナたちは逃げ出し、復讐したがっている」
「カル港に留まるほうが良い」サモスが言った。
「タレーナは北の森で奴隷にされているんだ」わたしは言った。
「まだ愛しているのか?」サモスはまっすぐにわたしを見て尋ねた。
  わたしははっとした。
  タレーナ、美しいタレーナはわたしの心の深いところに居る夢だ。我が初恋、忘れられない恋。いつまでも記憶に焼きついている。アルの南の湿原の近くで、ミンタルのキャラバンで、遊牧民パ=クルの大きなキャンプで、タレーナを思った。タレーナがアルにそびえる正義の柱に掲げられたこと、コ=ロ=バのランプの光の中で抱き合ったこと、自由な伴侶の杯を交わしたこと。
  タレーナを愛していないわけがない。深い愛、初恋、我が人生のすばらしき愛。
「愛しているのか?」サモスが問う。
「当たり前だ!」苛立って叫んだ。
「何年も経った」サモスが言う。
「それは関係ない」わたしはつぶやいた。
「お前たちは二人とも、昔とは違う」サモスが言った。
「剣で決着をつけたいのか?」
「それも良いだろう。それで問題が解決するのであればな」
サモスが言った。
  わたしは怒りに震え、うつむいた。
「お前が愛してるのは幻想かもしれない。女ではなく、人ではなく、思い出だ」
サモスが言った。
「愛を知らぬ者に何がわかる」
  サモスに怒った様子はなかった。「そうかもしれないな」
「あなたが駒を動かす番だ」わたしは言った。 

Talena

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訳者の言い訳と解説
  みなさまのイメージもありますので、余計な画像はないほうが良い気もしますが、
挿絵があるのも楽しいかなってことで、 タールの夢の女、タレーナ。
  でもやはりここはエキゾチックな黒髪であるべきなんだろうなあ。

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2009年9月23日水曜日

ゴルの狩人 2 【HUNTERS OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの狩人
ジョン・ノーマン

 

1. リム(2)

「タルン戦士を守れ」サモスが言った。
  その代わりに、わたしはウバルをウバルのタルン戦士の1にさっと進めた。
  わたしはサモスの目を覗き込んだ。
  サモスはまた競技版に目を向けた。
  大きくて角ばった顔、短く刈り込んだ白髪、顔は太陽で浅黒くなり、風焼けと潮焼けしている。
耳には金の輪がついている。サモスは海賊であり、奴隷商人であり、達人の剣士であり、カル港の船長である。盤をじっと見ていた。
  サモスはウバルのタルン戦士を槍兵で取らなかった。わたしを見上げてから、
彼の書記の1でホームストーンを守った。
そこは彼のウバルのタルン戦士の3を制御し、対角線を仕留めるところだ。
「タレーナは、アルのマルレヌスの娘は北の森に連れてゆかれ、奴隷になったと聞いた」
わたしが言った。
「その情報はどこで手に入れたんだ?」
サモスが聞いた。彼はいつも疑り深いのだ。
「わたしの屋敷にいた女奴隷だ。愛らしい娘さ。名はエリノア」
「あのエ=リ=ノアか。今はトレヴェのラスクの所有物の」
サモスがたずねる。
「そうだ」わたしは微笑んだ。「あの娘は金貨100枚になったよ」
「間違いなくその価値がある。トレヴェのラスクはその値段の1000倍は楽しめるだろう」
  サモスは微笑んで言った。
  わたしは微笑んだ。「そうだろうとも」
わたしは競技に注意力を戻しつつ言った。
「だが、あの二人の間にあるのは本当の愛なのだろうか」
「愛―――。女奴隷への愛?」サモスは笑って言った。
「パガはいかがですか、ご主人様?」
黒髪の娘がテーブルの脇にひざまずいて尋ねた。
  サモスは娘のほうを見ず、ゴブレットを突き出した。娘がそれを満たす。
  わたしもゴブレットを突き出し、わたしのも満たされた。
「下がれ」サモスが言った。
  娘が下がった。
  わたしは肩をすくめた。
「愛か否か」サモスは競技盤をじっと見ながら言った。
「ラスクは首輪に繋ぎ続けるんだろう。―――トレヴェの男だ」
「たぶん」わたしは認めた。それにサモスが言っていることが真理であろうと少しの疑いも持たなかった。トレヴェのラスクは彼女に惚れ、彼女もそうだとしても、何の権利も持たぬ完全なるゴルの女奴隷の身に彼女を置くだろう。―――トレヴェの男なのだから。
「トレヴェは価値ある敵と言われているな」サモスが言った。
  わたしは何も答えなかった。
「コ=ロ=バの人々はしばしばそう感じている」
サモスが言った。
「わたしはカル港のボスクだ」
「その通りだ」サモスが言った。

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2009年8月12日水曜日

ゴルの狩人 1 【HUNTERS OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの狩人
ジョン・ノーマン

1. リム(1)

「わたしは望まん」
サモスが競技盤から顔を上げて言った。
「北の森に旅立つことは」
  わたしは競技盤をじっと見つめ、慎重にウバルのタルン戦士をウバルの書記の6に据えた。
「危険だ」
サモスが言った。
「あなたが駒を動かす番だ」
わたしは言い、ゲームをじっと見守った。
  サモスはウバルのタルン戦士を槍兵で脅かし、ウバルの4にぐいと進めた。
「我々はお前が危険にさらされても関与しない」
サモスの口には微かな笑みが浮かんでいる。
「我々?」わたしは尋ねた。
「神官王とわたしだ」サモスが言った。
「もう神官王に仕える気はない」
「ああ、そうだな」サモスは言い、「タルン戦士を守れ」と付け加えた。
  天井が高く、高さがあり幅の狭い窓があるサモスの広間で、我々は競技をしていた。夜が更けていた。わたしの左後ろ上部の松明受けの中で、松明が燃えていた。赤と黄色の100の升目のある競技盤の上に影が揺らめく。重みの付いた駒は、競技盤の上で背が伸びたかのように、競技場の向こうへ炎から影を落としている。
  我々はタイルの床の上に足を組み、競技盤に向かっていた。
  奴隷娘の右足首にはめられた奴隷の鈴の乾いた音が右側からする。 
  サモスは青と黄色の奴隷商人のローブを着ていた。実際にカル港の第一奴隷商人であり、4人のウバルが失脚して以来、カル港で主権を持つ船長評議会の第一船長でもある。
わたしも船長評議会の一員の、カル港のボスク屋敷のボスクである。わたしはフルトの毛で織られた白いローブを着ていた。遥かアルから輸入され、トルの金の布でへりに飾りがついていて、商人の色だ。
しかしローブの下には、戦士の色の赤いチュニックを着ていた。
  部屋の片隅には、裸にされ後ろ手に枷(かせ)をかけられ、足首を短い鎖で繋ぎ止められ、首の周りには鍛造した重々しい鉄の輪をされた大きな男がひざまずいていた。
男のわずかに後ろに、兜をかぶりゴルの剣を脇に持った2人の衛兵が側を固めていた。
男の頭は数週間前に。2.5インチの筋に、頭の前から首の後ろまで剃られていた。
今は数週間経ったので、短い黒い毛がまた現れていた。
剃られた筋以外は、ぼさぼさの黒い髪だった。この男には力がある。まだ焼印は押されていないが奴隷だ。首輪がそう物語っている。
  競技盤の横には女が跪いている。短い透けた、緋色の奴隷のシルクをまとい、鍵のかかった首輪は黄色いエナメル。黒い瞳、黒い髪。
「おつぎしますか、ご主人様」
娘が尋ねた。
「パガをくれ」
サモスが競技盤をぼんやりと見つめながら言った。
「もらおう」わたしが言った。
奴隷の鈴をきらめかせ、娘が引っ込む。彼女が離れるにつれ、衛兵たちに側を固められた跪いた男の奴隷を素通りするのが見えた。彼女は奴隷娘らしく、すました態度で傲慢に、体であざけりを示して男を通り過ぎた。
  男の目に憤怒の光が走り、鎖の動く音がした。衛兵たちは男に注意を払わない。しっかりと繋ぎ止められているからだ。女は笑い、続いて自由な男にパガ酒を取ってきた。

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ゴルの狩人 登場人物 【HUNTERS OF GOR】

ボスク(タール・キャボット)
  反地球シリーズの主人公。
ゴルに連れて来られた地球人。
タール・キャボットの名を捨て、カル港の商人ボスクを名乗っている。

サモス
  カル港の奴隷商人。評議会のメンバーであり、有力者である。
実はそれは世を忍ぶ仮の姿で、神官王に仕えている。

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2009年8月11日火曜日

ゴルの狩人 目次 【HUNTERS OF GOR】

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