<反地球シリーズ>
ゴルの狩人
ジョン・ノーマン
1. リム(3)
わたしはウバルの高タルラリオン騎手を動かし、サモスが余裕で守っているホームストーンの列を抑えようとした。
「おまえがマルレヌスの娘、タレーナと自由な伴侶になってからだいぶ経ったな」
サモスが言った。
「自由な伴侶は、一方の死によって次の年には更新されない。それにお前は一度奴隷になっている」
わたしは苛立ちながら、競技盤を見ていた。ゴルの法において自由な伴侶が無効になり、更新されないのは事実だ。それに自由な伴侶は誓約した伴侶の一方またはもう一方が奴隷に落ちれば、その時点で終結するのだ。わたしはヴォスクの三角州での燃えるような恥辱を思い出し、腹を立てた。自分は戦士だと思っていたのに、あの時わたしは跪き、名誉ある死という自由ではなく不名誉な隷属を請い求めた。そう、わたしカル港のボスクは、一度は奴隷になったのだ。
「あなたが駒を動かす番だ」わたしは言った。
「タレーナという娘を探す義務は無いのだぞ」サモスは言った。
わかっている。
「わたしはタレーナにはふさわしくない」
タレーナのことを忘れたことはない。彼女の美しさ、オリーヴ色の肌、緑色の瞳のタレーナ。すばらしく美しい姿、幻想的な唇、ウバルの中のウバルであるアルのマルレヌスの誇り高き血が流れている。わたしの初恋だ。出会ってから何年も経った。
「神官王がタレーナとわたしを引き裂いた」険しい目つきでサモスに言った。
サモスは競技盤から目を上げず、
「この世のゲームにおいて、われわれは重要ではないのだ」と言った。
「タレーナは北の森に連れて行かれたと聞いた。無法者のヴェルナが、アルのマルレヌスをおびき寄せるためだ。マルレヌスは当然タレーナを救おうとするだろうから」
わたしは顔を上げた。
「マルレヌスは狩りに遠征をして、動物や、ヴェルナと配下の者を捕獲したんだ。戦利品として籠に入れて展示した。ヴェルナたちは逃げ出し、復讐したがっている」
「カル港に留まるほうが良い」サモスが言った。
「タレーナは北の森で奴隷にされているんだ」わたしは言った。
「まだ愛しているのか?」サモスはまっすぐにわたしを見て尋ねた。
わたしははっとした。
タレーナ、美しいタレーナはわたしの心の深いところに居る夢だ。我が初恋、忘れられない恋。いつまでも記憶に焼きついている。アルの南の湿原の近くで、ミンタルのキャラバンで、遊牧民パ=クルの大きなキャンプで、タレーナを思った。タレーナがアルにそびえる正義の柱に掲げられたこと、コ=ロ=バのランプの光の中で抱き合ったこと、自由な伴侶の杯を交わしたこと。
タレーナを愛していないわけがない。深い愛、初恋、我が人生のすばらしき愛。
「愛しているのか?」サモスが問う。
「当たり前だ!」苛立って叫んだ。
「何年も経った」サモスが言う。
「それは関係ない」わたしはつぶやいた。
「お前たちは二人とも、昔とは違う」サモスが言った。
「剣で決着をつけたいのか?」
「それも良いだろう。それで問題が解決するのであればな」
サモスが言った。
わたしは怒りに震え、うつむいた。
「お前が愛してるのは幻想かもしれない。女ではなく、人ではなく、思い出だ」
サモスが言った。
「愛を知らぬ者に何がわかる」
サモスに怒った様子はなかった。「そうかもしれないな」
「あなたが駒を動かす番だ」わたしは言った。
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訳者の言い訳と解説
みなさまのイメージもありますので、余計な画像はないほうが良い気もしますが、
挿絵があるのも楽しいかなってことで、 タールの夢の女、タレーナ。
でもやはりここはエキゾチックな黒髪であるべきなんだろうなあ。
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